【谷口 克広】「織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで」




織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで」読了。

ドラマや小説や映画やコミックで表現されている織田信長ですが、合戦こそが戦国時代を終焉に導いた信長の人生ではなかったかと思い購入しました。

2002年に刊行されて以来14版という、名著の部類に入る研究書です。

織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで (中公新書)

谷口 克広 中央公論新社 2002-01-01
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専業武士「馬廻」を創設した信長

以前読了した「織田信長の家臣団」でも、信長直轄の武士団として馬廻に触れていましたが、「織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで」では、馬廻についても、より詳しく説明があります。

ドラマとか映画くらいでしか信長を知らない者にとって、信長の家臣といえば、柴田勝家や丹羽長秀、羽柴秀吉、明智光秀になりますが、合戦に出向く信長に、常に付き従うのは馬廻と小姓です。

有名な桶狭間の合戦では、信長はわずか5人の小姓とともに出発し、途中で自軍の到着を待って態勢を整えます。

専業武士(のちの旗本)を信長が創設する以前は、農民が武器を持って戦っていたために、農繁期は合戦がありませんでした。

しかし織田信長は、父から引き継いだ財力を背景に、地元の国人や土豪の次男三男に給金を払うことで、専業武士団を形成していきます。それが、馬廻であり小姓でした。
その数700から800という記録があります。

手足のごとく使える専業武士団が、信長の合戦における原動力であったと、本書では指摘しています。

現代に置き換えると、正社員700人の会社が、派遣社員2万人の会社と競うようなものです。

正社員の場合、会社の運命=自分の運命であるため、忠誠心が高くスキルアップに努めます。
かたや派遣社員の場合、スキルと時間を切り売りしているに過ぎないので、忠誠心が低いと言えるかもしれません。

これが、命をやり取りする合戦であればなおのこそ、忠誠心の高さは合戦を左右するものであったと推測できます。


合戦では焼き討ちがあたりまえ

信長の合戦の様子が、史料をもとに紹介されている「織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで」ですが、多くの合戦で焼き討ちが行われています。

信長といえば、比叡山の焼き討ちが有名で、いまだに賛否両論ありますが、当時の合戦では焼き討ちが効果的な常套手段であったと考えれば、仏教の本拠地であろうが焼いただろうと思えます。

しかも、女・子どもの殺すというのも別に珍しいものではないようで、生きている時代が違う者がとやかくいっても仕方がないような気がします。

合戦の様子が克明な資料として残っていて、多くの研究者に研究されている武将がどのくらいいるのかわかりませんが、すべての合戦の記録を読むことができるのは、信長、秀吉、家康、信玄、謙信くらいかもしれません。

代表的なこれらの武将と比較して、信長を残酷な武将と評することは危険だと思います。
戦国時代の合戦のスタンダードがわかって初めて、信長を評することができるのだと感じます。


合戦にスピードを持ち込んだ信長

親衛隊の馬廻・小姓を従える信長の合戦はスピーディという特徴があります。

これは、信長の性格によるところであったと分析しつつも、著者は「信長には地元を空けていられない事情があった」と書いています。

その事情とは、四方に敵がいて、本拠地を長期間留守にすれば攻め込まれる危険性が長く続いたためです。
長期不在は政権転覆というリスクがありました。

しかし、方面軍が徐々に構成されていくと、それぞれの武将はしばしば長期戦を採用しました。兵糧攻めが代表例です。
佐久間信盛は、本願寺を包囲しながら4年間、何もしませんでした。
それがあだとなって、信長から処罰されたことは有名な話です。

信長の跡を継いだ秀吉、家康も、合戦にスピード感があったと著者は分析します。

秀吉の場合、中国大返しというスピード移動に、その特徴がみられます。
トップ自らが先頭を切って移動し、必要とあらば、金銭や兵糧を惜しみなく配って兵站=ロジスティクスを素早く構築するなど、秀吉ならではの知恵が加わっている点が、信長を超えている点だと説明しています。

家康の場合は、本能寺の変のあとの伊賀越え、そして弔い合戦のために京に向かいますが、山崎の合戦で秀吉が光秀を撃破したと知るや、信濃・甲斐へと進軍して手中にします。

的確な判断力が加わり、家康の軍団の素早さには他にはない特徴があるようです。


単なる合戦の記録ではない魅力

本書の著者・谷口 克広さんは、戦国史研究家。
とくに信長の研究では著名な方のようです。

本書を読みはじめて感じたのは、専門書にありがちな、凸凹した読み進めにくい感じが全くないことです。
スムーズにテンポよくページをめくることができる本は良書だと常々思っておりますが、同じようなスムーズさがある戦国史の専門家に小和田 哲夫さんがいらっしゃいます。

できるだけ正しい情報を、丁寧にまとめて、文章にあらわすことは、けっこう難しい作業です。
しかも、知識をほとんど持たない一般人が読んでも楽しめるように説明することは、とても面倒な作業でもあります。

そういう文章が書ける方には、深い知識と理解があるのだと、わたしは思います。
自分が十分に理解していないことは、だれにでもわかるようには説明できないものです。

織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで」には、信長への愛が詰まっていました。
信長のことを知りたいという方におすすめです。

谷口さんの著作は、この後も何作か続けて読んでみたいと思っています。


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