【阿部 智里】 「烏は主人を選ばない」




阿部 智里 の八咫烏シリーズ第二作「烏は主を選ばない」読了。

やっぱり一気読みでした。
早く先を知りたい、という気持ちが強くなる作品です。


烏は主を選ばない (文春文庫)

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シリーズ第一作の「烏に単は似合わない」が、女子編だとすると、まったく同じ時間軸のとき、主役である”日嗣の御子”は何をやっていたのか?がテーマの男子編です。

書評を読むと、そもそもは一つのストーリーとして1冊にまとめようとしていたと作者が語っていたようですので、第一作が表向きの宮中のストーリーとすれば、第二作は、その宮中でひそかに繰り広げられる、裏の権力闘争を描いたもの。


つまり、これらは表裏一体の物語なのです。


烏に単は似合わない (文春文庫)

阿部 智里 文藝春秋 2014-06-10
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第一作で書き表された設定を、宗家=天皇家、東西南北の宗家の親戚=藤原四家、というように読んでいたので、権力闘争物語は、予想できていました。

奈良時代に南家・北家・式家・京家の四家に分かれ、平安時代には北家が皇室と姻戚関係を結んで摂関政治を行った。
藤原氏の一族は、奈良時代から平安時代までは本姓の「藤原」を称したが、鎌倉時代以降は姓の藤原ではなく、「近衛」「鷹司」「九条」「二条」「一条」などの苗字に相当する家名を名のり、公式な文書以外では「藤原」とは名乗らなかった。
これらをあわせると特に朝廷における比率は圧倒的であり、地方に散った後裔などもふくめ、日本においては皇室(およびその流れを汲む源平など)に次いで大きな広がりと歴史を持つ家系である。
Wikipediaにある通り、本作の設定のモデルは天皇家と藤原家なのだろう、と第一作の冒頭に瞬時に理解できました。
しかも、宗家の家紋は下り藤! これは藤原家の代表的な家紋です。

そして、このような皇位継承にかかわる権力闘争が実際に起こっていたわけで、それと思わせてくれるような描写が続く、史実をファンタジーに置き換えてみたら?的な展開です。

なにしろ、正室と側室がいるわけですから、血筋の問題は常に付きまとう、という設定です。

”日嗣の御子”は側室の子、しかも、正室の子が廃太子されている、というのですから、周囲が放っておきません。

そして、本作で登場する雪哉という少年もまた、血筋に悩まされているというのです。


ある意味、ベタな設定、ベタな展開として、源氏物語以来書き継がれているテーマなのですが、物語に引き込まれてしまいます。

これが八咫烏シリーズの魅力です。
十二国記シリーズに通じるものがあります。

本作は、第一作に続く八咫烏シリーズの設定を、人間関係と政治面で深めた作品ともいえます。
おそらく、本作でメインの登場人物はほぼ登場しているのではないでしょうか。

今回は、”日嗣の御子”が明智探偵よろしく謎解きはしませんが、”日嗣の御子”であり「真の金烏」の人物描写に詳しく、次作への期待感が深まります。


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